No.017 : “何か”と”何か”の間で(前編)/レザイ美樹

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サザンオールスターズ、APOGEE、DJやついいちろうなど、多くの著名ミュージシャンの仕事を手掛けるアートディレクター、レザイ美樹さん。着実とデザイン業界で実績を積み上げる傍ら、2010年、初のイラストレーションによる個展「NEW ERROR」が表参道ROCKETにて開催されました。デザイナーが描くイラストは”アート”なのでしょうか?それとも”デザイン”なのでしょうか??今回は個展会場にてインタビューを収録させて頂きました。

レザイ美樹
アートディレクター/グラフィックデザイナー
1976年生まれ。本名。多国籍の血が混じる。本郷高校デザイン科卒。多摩美術大学表現造形学部卒業。
ビクターエンタテイメントにてCDジャケット及び音楽ヴィジュアル制作のディレクションやデザインに関わったのち、2004年独立。ドローイングを中心としたアート活動も行う。

ワタベカズキ(以下K) – レザイさんの初めてのお仕事って、どういったものだったんですか?

レザイ美樹(以下R) – 実は高校生のときなんだよね。駒込にある「しもふり銀座」っていう商店街のロゴのデザインコンペがあったんだけど、うちは男子校だったから、先生が描けと言っても誰も描かなくて。しょうがなく描いたら、なぜか選ばれちゃった。後で知ったんだけど、プロも応募してくるようなコンペだったんだよね(笑) しかも、それが今もまだ使われてるんだよ。もう15年になる。

木村彩人(以下A) – 仕事で作ったものが15年も現役で使われるって、なかなか無いですよね。

R – 滅多にないね。でも小学生の頃は、漫画家を目指してたんだよ。それが家の事情でオーストラリアに引っ越すことになって。俺は漫画家になりたかったから、日本で10代のうちに賞を取りたいって考えてたのね。その頃は純粋に日本人の価値観で、少年ジャンプで連載をして…とか考えていて。
でも当時、日本の漫画は全然海外で通用していなかった。向こうはスパイダーマンみたいな劇画調のタッチが主流だったから。そこでもう漫画家は諦めてしまった。小学生ながらに、この国に住んでいたら日本風の漫画を描いても駄目だって。それから、デザインに向かうようになったんだよね。

K – 小学生の時点で漫画家を挫折して、デザインに興味を持つというのも早いですよね。僕はデザインっていう概念を理解できたのが、せいぜい高校生くらいでした。

A – 今思えば恥ずかしいですけど、僕も大学受験の頃には「デザイン大好き!」とか言ってました。アートとデザインが違うことも知らずに(笑)けれどもその感覚って、一般的なんですよね。今でもデザインをする仕事で何も無いところを「木村君のセンスでよろしく」ってたまに言われたりしますけど、デザイン的にそれは難しい。

「SOUTHERN ALL STARS」 Art Direction and Design:Miki Rezai / Creative Direction:Kenji Yamaguchi / Photograph:Makoto Okuguchi / Cliant:Victor Entertainment

R – クライアントが考えていることを汲み取って、作ってを繰り返して形にするのがデザインだからね。アートは自分の中にあるものを出す行為だから。今回の個展は、そういう意味でデザインではないし、純粋なアートでもない。自分のことを良く知ってくれている人はちょっと混乱するかもしれないけど、それを狙ってるところもあって(笑) 僕みたいにグラフィックデザイナーだと認識されている人がこういうことをやると、「レザイ君、アートっぽいことをこれからやっていくの?」って聞かれたり。でも一方で感想を書いてもらうノートを見てみると、知らない女の子が「可愛かったです」とか書いてて。そんなことは関係ないんだなって。

K – 確かに、僕も含めて職業でデザインやアートを触れていない人間から見ると、そこまで関係ないんですよね。「木村君のセンスで」っていうクライアントの要求も、ある意味納得できる。

A – そういうときって、大概は「デザイン=魔法」くらいに思われていて。 ちょっとくらい欠けたものがあっても、デザインで補えるっていう感覚なんですよね。でも、欠けたものがあったら、それがそのまま出てしまうのがデザインだと僕は思っていて。

「グラフィックデザインは誰でも出来る」という認識

R – 最近の広告的なデザインって、職人的なものより、いかにシンプルに展開させるかっていう流れがあって。でも俺がグラフィックデザイナーとして憧れたのは、職人的なデザインだったんだよね。例えば、最近学生に話す機会があったんだけど、質問を受付けると「ソフトは何を使ってるんですか?」って話になったんだよ。それを客観的に考えてみると、ソフトがあれば出来る事を、俺がやっている様に見えてるんだなって思えちゃって。要は、グラフィックデザインが誰でも出来る事だっていう認識になってたんだよね。

「DJ YATSUI ICHIRO」 Art Direction and Design:Miki Rezai / Photograph:Yoshiharu Ota / Styling:Yoshio Hakamada / Cliant:Victor Entertainment

R – 僕が20代前半の頃は、高価なMacを買ってデザインすることに対する憧れっていうのがあったんだけど。今はMacも安く買えるし、高機能なAdobeのソフトもちょっとお金を貯めれば買えるでしょ?そんな中でシンプルなデザインが流行ってきちゃうと、誰でも「○○さんっぽいデザインできます」って事になっちゃうんだよね。けど誰でも出来ることを俺はやりたいわけじゃないなって。そう思うと、時代に逆行してでも、こうやってネチネチと絵を描くしかないなって思うようになったんだ。

K – シンプルなデザインって、最初に見たときのインパクトは強いんですよね。でも、ある時点からそういうデザインが増えて過ぎて、そればかりになってしまって食傷気味になっていますね。

R – 常にカウンターが起きているんだよ。ある時ははネチネチ描く人がたくさんいて、その反動でスパッとしたデザインが流行って、そして今の俺は、それに対して「違うでしょ」っていう気持ちがある。そういういろんなタイミングが自分の中で合致して、今回の絵を描き始めたっていうのもある。

A – アーツ・アンド・クラフツ運動や、アール・ヌーヴォーからアール・デコへの流れはまさにカウンターの代表例ですよね。
それにそもそも職業でモノを作っている人って、結局は好きで作っているところがあるじゃないですか。綺麗な雪の絨毯を目の前にしたら、意味も無くカマクラを作りたくなるような。そういう衝動って、大事ですよね。

R – 手間をかけたモノって、やっぱり愛着があるんだよね。説得力を感じる。意味のないものを、時間をかけてやることの面白さってあるよね。「何でそこまでやるの?」って言われちゃう様な事のほうが、突き抜けた面白さとか、強さを生み出せたり。自分はクライアントと綿密に打ち合わせをして…っていう仕事を10年やってきたけど、やってきたからこそ、今こういう事がやりたくなったのかもしれない。

B4の紙に対しての、正しい線幅

A – 今日持って来ていただいたものは??

R – 今日持ってきたのは、TOMBOの0.9mmのシャープペンシルと、PILOTの消しゴムです。
俺はどんな仕事をするときも手書きのラフから始めるんだけど、そのときはこれを使って描くんだよね。自分は、全く物に固執しないタイプなんだけど、これだけは常に手元にあるように2本ずつ買って、会社と家それぞれに置いてある。今回の個展の絵の原画がこれなんだけど…。

K – 原画、いいですね。シャープペンシルの選択には紆余曲折があったんですか?

R – そこまでなかったかな。決め手だったのは、自分の中で「B4の紙に対しての、この線の幅」が正しくなったっていうことで。B4の紙にこのペンで描くと、細かいところで描ききれない部分が出てくるでしょ。ほら、ここのギターの弦のところとか。この具合が丁度いいんだよね。0.5mmでは細すぎるし、紙がA4でも駄目で。それこそ、作品の実寸大ならもっと細かいところまで描けるんだけど、今回はそこにこだわったんだ。

K – 僕は美術の授業以外で絵を描いたことがほとんど無いので、それは考えたこともありませんでした。言われてみると、その影響って大きいですよね。

R – 基本的に物に執着はないんだけど、技法が定まってからはこの2つだけは欠かせないな。木村君はこういう感覚ってある?

A – メモ帳を兼ねたスケッチブックは持っていますけど、絵はほとんど描かないですね。大学の受験でデッサンは経験していますが、あまり好きになれなくて(笑)

R – 俺もデッサンは大嫌いだったし、デザイナーに成り立ての頃に手描きでラフを描けって言われて、すごく嫌だったな。実はけっこう最近までデッサンなんていらないって思ってたんだよね。でも最近気付いたんだけど、デッサンって「○○感」を表現する為の良い練習になって。例えば、「鉄のギラギラ感」や、「ペットボトルのつやつや感」を鉛筆で描いたりする。結果的にそれって、デザインの仕事でも必要なことじゃん? それは何で学んでも良いんだけど、デッサンが一番わかりやすい学び方なのかなって。

(後編はこちら)

2010.5.10 update

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