No.019 : 限りなく近い(前編)/KOCHI

Service  >> Delicious | Hatena Bookmark | Twitter

“職人”に憧れる若者が多いという話があります。追求することで開ける未知の世界への憧れなのか、それとも、あまりにもインスタントに作られたモノ達に囲まれて育ってきた事実に対してのアンチテーゼなのでしょうか。ほとんどの職業には少なからず職人性があるものですが、今回のゲストは肩書きから”職人”。都内で活動する”ギター職人”KOCHIさんの工房にお邪魔してきました。

KOCHI
CFセットデザインアシスタント、イラストレーターアシスタント、デザイン会社イラストレーターを経て1992年よりフリーランス活動へ。2008年よりギターブランド「月桃GUITAR」を立ち上げ、同ブランドによるストラトキャスターの制作を開始。

木村彩人(以下A) – いつからギターを作り始められたんですか?

KOCHI(以下 K) – 作るのは、昔からやっていて。そのときに今のブランドはなかったんだけど、ギター雑誌に連載のページをもらっていて、素人でもできるような改造の紹介をしていたんだよね。2008年に月桃ギター(GETTO-GUITAR)っていうブランドを立ち上げたから、それからはまだ2年くらい。

A – “ギター職人”っていう響き、通りますよね。なぜでしょうか。デザイナーなら「ふーん」っていう反応がほとんどなのに(笑)

ワタベカズキ(以下W) – 僕は長野生まれなんですけど、あそこは気候が適しているようで、ものすごくギター工房が多いんですよ。ギターの出荷量が日本一らしくて。けれども東京で作っているっていう人は、なかなか聞かないですね。

K – 少ないだろうね。世代もあるのかな。最近の人って、モノ作りから遠ざかっているじゃない? デザインって言っても、実際にモノを作らなくなってきたりして。それで珍しく思うのかもしれない。

1963年製ストラトキャスターの精密なリプレイスメント

W – 月桃ギターは、まずヴィンテージ・ギターに対しての尊敬がありますよね。若い世代にとってヴィンテージは遠い存在なんですよ。プロが持っているか、コレクターが所蔵しているっていうイメージです。高校生の頃に、お茶の水の楽器屋で1960年代前半のレス・ポールを見つけたときに、値札を見たら64万円って書いてあったんです。高いなあって思ってよく見てみたら、実はゼロがもうひとつ多くて思わず後ずさりましたよ(笑)

K – 60年代前半のレス・ポールは、状態が良いと今は3000万くらいするからね。マンション買えるじゃんって話ですよ(笑) もはやヴィンテージが楽器じゃなくなってきていて。骨董価値の方が高くなってる。
うちのブランドを始めるにあたってヴィンテージを研究してみたんだけど、明らかに今の楽器より反応が速いし、感情表現の幅も広いんだよね。そういう音が、なんで今の楽器で出ないのかっていうところが始まりなんですよ。ありもののフェンダージャパンのギターとかを改造して、ヴィンテージみたいな音にならないかなっていうところから入って。最初はルックスをいじってたんだけど、徐々にサウンドをこだわるようになって…ピックアップだったり、配線だったり、ハンダだったりね。それをやってみて、一個一個を潰していった集積が、月桃ギターっていうことになるのかな。

K – そういう意味で、月桃ギターは1963年のストラトキャスターの精密なリプレイスメント・ギターと言えると思うんだ。そこらの”ヴィンテージ志向”よりも、余程ヴィンテージに近い。例えばギターは木だけじゃなくて、金属によっても音が変わるんだよね。うちはヴィンテージの金属成分調査をして、今のJIS規格に合わせてオリジナルでパーツを作っている。月桃ギターは、君みたいにヴィンテージに興味があるけど、弾いたことはないっていう人に弾いてもらいたいわけ。全く一緒ではないんだけど、限りなく近いはずだから。

W – 確かに、本物のヴィンテージは触ることすらできないですし。その点、月桃ギターは品質に対して価格が適正ですよね。

K – ヴィンテージを基準にしたら、えらく安いですよ。60万円だから。その代わりうちは年間で10本しか作らないから、買うときには面接があって。わけわからないやつが来たら「お前帰れ」と(笑) そういうスタンスでやりたいんですよ。

使われないギターは車に例えたら”廃車”

W – ヴィンテージのギターって、大事にされすぎて弾かれなくなっているものも多いですよね。あれが僕は残念なんです。道具として作られたものなんだから、道具として使われて一生を終えて欲しいんです。

K – その状態ってもう、車に例えたら”廃車”だよね。結局エレキギターの文化が浅いんですよ。開発されてから、まだ50年くらいしか経ってないから。
例えば、バイオリンのストラディバリウスってあるでしょ? あれはさ、何億円もするから金持ちが買うんだけど、自分が認めた演奏家に貸すんだよね。それで、世界中で演奏されたり、音源に収録されたりする。金持ちがちゃんと貢献できてるんだよ。その辺がエレキギターはまだなくて、文化として未熟なんだよね。それこそルネサンスの頃なんかは、パトロンとかがさ、ものを所有して満足するんじゃなくて、人を育てることをしていたわけで。今の金持ちはそうならないよね。

W – 金持ちの方がセンスが悪かったりしますもんね。

K – 結局日本人なんて、三代前までほとんど百姓だから(笑) 文化が育つには、もう少し時間がかかるのかもしれない。

K – 何でも今のものって、作ったときが一番価値があって、使ってるうちにだんだんと下がっていくわけでしょ? 車なんて1メートルでも乗ったら価値が下がる。楽器は上がっていかないと駄目で。そういうものを作りたいなって思ってるんだよね。
うちなんかひとりでやってるから、作る側のコスト効率は全然良くないんですよ。買う人にとっては度胸がいる値段だけどね。でも、ピックアップはその人のために巻くし、ネックもその人のために削る。オンリーワンなものを作るわけであって、出来合いのものから選んでもらう商売じゃないんだよね。そこに価値があるんじゃないかなと俺は思ってるんだけど。

原音にエフェクト音が纏わりついた、温かい音

A – エフェクターがたくさんありますね!それこそ月桃ギターとマッチしそうな形をしています。

K – 全部ヴィンテージだからね。一番古いのと、新しいので間が10年くらい。これ以外にもいろいろヴィンテージはあって…。これなんか、すごいよ。

W – うわ、BOSSのCE-1じゃないですか!

K – これは高校生のときに先輩が持ってたんだけど、当時は自分で買えなくてさ。大人になってから買ったんだよね。初めは、ディレイとかコーラスにはあんまり興味なかったんだけど。歪みものの方が好きで。でも最近のデジタルのディレイを試奏してみたら、音が分離してるんですよ。原音とエフェクト音が。それが受け入れられなくて。
ヴィンテージのアナログディレイは、原音にエフェクト音が纏わりついてて、ある意味では抜けが悪いんだけど、温かい音がするんだよね。そこにもう耳が馴染んじゃっていたから、ヴィンテージを買うしかなかった。こんなの昔は「あげる」って渡されても、いらねえよって言っていたくらいなのに。

W – 最近は全体的に抜けが良い音になってるから、他の音に埋もれないようにするためにギターの機材もそうせざるを得ないんでしょうね。僕も当時の音が好きなので、惜しいなあと思います。

K – 良い音してるよね。これが作れていたんだから、日本人も捨てたもんじゃないよ。

 

(後編へ続く)

2010.7.20 update

タグ: ,

関連記事