No.019 : 限りなく近い(後編)/KOCHI

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“職人”に憧れる若者が多いという話があります。追求することで開ける未知の世界への憧れなのか、それとも、あまりにもインスタントに作られたモノ達に囲まれて育ってきた事実に対してのアンチテーゼなのでしょうか。ほとんどの職業には少なからず職人性があるものですが、今回のゲストは肩書きから”職人”。都内で活動する”ギター職人”KOCHIさんの工房にお邪魔してきました。

(前編はこちら)

調べてみたら「違うじゃねえかよ」っていう伝説はたくさんある

KOCHI(以下 K) – 僕は1964年以前のフェンダーが好きで。フェンダーは1964年にCBSっていう会社に買収されたんだけど、それ以前の物づくりの姿勢が素晴らしいんだよね。この時期のことを「プリCBS」って言うんだけど、この頃のレオ・フェンダーが制作に口を出して、管理をしている時期のギターは本当に良い。今触っても何かしら発見があるくらい。

木村彩人(以下A) – 所有はされているんですか?

K – 所有はしてない。そこはもうコレクターの力を借りて、「バラしていい?」とか無理を言ったり(笑) 最初はそういう協力者がいて、うちのギターの完成度はそこで出来上がったんだよね。最近は研究も進んで、ストラトキャスターに関して、ヴィンテージのサウンドの秘密はほとんどわかった感じがあるかな。当時のフェンダーが、かなり気を遣ってその材質にしたっていうところもあって。そういうのは面白いよね。

金属って奥が深いんですよ。みんな「このギター、木がよく鳴ってるね!」って言うでしょ? でもエレキギターは、弦が直接木に触れてるところなんてないんだよ。もちろん木が枯れてくると音も変わるけど、それも金属を通して振動が伝わっているわけだから。今のギターの悪いところは、どちらかというと駄目な金属を使ってるせいなんだよ。メッキの仕方とか、制作方法が楽器用には考えられていなくて。

「Stevie Ray Vaughan Live at Montreux 1982 & 1985」日本語板DVDインナーに採用されたイラストレーション。 →kochi’s works

K – けれども中には、昔はそれしか方法がなかったから、そうなったという部分もあってね。面白いなあって思うよ。偶然できているところと、意図的にやってるところが両方あってさ。今それを作ろうと思うと、当時の無意識を意識的にやらなくちゃいけないから、知らないと作れないんだよね。ダ・ヴィンチの絵に赤外線を当てたら下絵が出てきましたって話あるじゃない? あの感覚に近い。

ワタベカズキ(以下W) – なるほど。やはり目標は最初におっしゃっていた1963年のストラトキャスターなわけですよね。

K – それは目標…なんだけど、もう卒業しなきゃって思ってる。プリCBSのギターは、言わばギター作りの基礎。だから俺はまだ基礎をやってる段階で、そこが終わったら次にいくべきなんだよね。

A – ということは、その基礎が終わったら、次のフェーズとしてそれを超えるギターが出てくるということですよね。

W – 1963年超え! それが新品のギターで起きたら革命ですよ。

K – うん。今までにないサウンドを実現したいなって。例えばピックアップの構造なんて、50年も変わってないんですよ。磁石はアルニコ磁石を使っていて。でもこれを磁石屋に言わせれば、「何でこんな不安定な磁石を使ってるんだ」と。だけど楽器業界では、アルニコの音が良いって…これはもう伝説なんだよね。それをさ、「本当にそうなの?」って検証しないといけないんだよ。実際調べてみたら違うじゃねえかよっていうのがたくさんある。

楽器は、それが作られた時代の音がしている

K – 僕らがブルージーだって言っている音って、音色が重要なんですよ。それはボーカリストで言ったら声なんだけど。ただ、「いい声」のギターは反応が良すぎて弾きづらい。ミスがはっきり出るんだよね。けれども練習すればちゃんと素晴らしい音が出る。最近のギターはミスが出づらいんだけど、その分声の張りを失っちゃってるんだよ。オブラートに包まれたように聞こえる。
今、世界的に音楽業界って低迷してるでしょ? ウェブ配信のせいだとかいろいろ言われてるけど、僕に言わせれば絶対に楽器のせいですよ。ハートが届いてないんだと思う。

W – それはあるかもしれませんね。こういう職人側の意見って、頑固で頑なに”触れ続けた”ところから生まれるっていうイメージがあるんですけど、KOCHIさんはいかがですか?

K – 実は仕事でデザイナーをやってた頃に楽器を触らない時期があったから、ブランクがあるんだよ。
30代前半くらい、少し余裕ができてからギターを買い直したんだけど、自分の中でサウンドが80年代で止ってたから、弾いてみて「あれ、こんな音だっけ?」と思って。それが始まりだった。

A – 空白の期間があって、浦島太郎状態だったわけですね。逆にそのブランクがなかったら、連続的な変化に違和感すら感じなかったのかもしれませんね。

K – そうだと思うよ。結局その後ヴィンテージ楽器屋に行って弾かせてもらったら、「これよ、これ!」って感じだった。350万円もしたから買わなかったけど(笑)
楽器って、良くも悪くもその時期の音がしてるんだよね。そいつが作られた時代の音がしてて、その時代が好きかどうかっていうのもあるんだと思う。逆に言えば、今の楽器だって今の音ではあって、それは否定する必要はないんだけど。ただ、モノを作ることって孤独だから、「これじゃ駄目だよ」っていう否定をエネルギーにはするね。

A – “今”に対する否定の結果が1963年への尊敬だとしても、それこそが新しい”今”の音の誕生なのかもしれないですね。「月桃ギター」は紛れもなく21世紀に生まれた楽器ですから。
今日は興味深いお話をお伺いできて、ありがとうございました。


2010.7.20 update

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