音楽家のこれからの活動の仕方を、まつきあゆむさんに学ぶ。

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ミュージシャンのまつきあゆむさんが、先日重大な発表をしました。音楽だけではなく広範な創作活動に適用できる可能性がある話だったので、紹介します。
まつきあゆむさんのプロフィールはこんな感じです。ウェブサイトより引用。

まつきあゆむ
1983年6月7日誕生。O型。
14歳からひたすら自宅録音を続け、2005年、ファーストアルバム「自宅録音」で世界に登場。
「ディストーション」「夕暮れの現代音楽」「まつきあゆむ」と立て続けにCDを制作、発表し、エクレトロニクスを用いたバンドセットライブ、逆回転サウンドのアコースティックソロセット等、3年半の活動後、ライブアクトを全面的に一時停止。
同時進行で「新曲の嵐」と称してmyspaceのサイト上で毎週月曜日に新曲の永続的更新を宣言し(07年9月17日よりスタート)、作曲録音を世界へ発表し続ける。
たぶん、一生。

まずはアルバム「1億年レコード」の発表おめでとうございます。他の曲も含めてMySpaceで試聴させていただきましたが、素晴らしいサウンドです。
さて、今回の本題は後者、「M.A.F設立」についてです。M.A.FとはMastuki Ayumu Fund(直訳すると、まつきあゆむ基金)の略で、これについて、彼はこう述べています。

僕みたいな音楽家にとって、従来の大規模音楽ビジネスの中にいるとこっちもむこうもお互い機能しないなって最近思ってました。
必要なのは、本当に欲しい録音機材を手に入れる事や創作したり録音するための時間をある程度自由にとったり、売りたい値段で売りたい時に音楽を売ったり(あるいは速攻でフリーダウンロードにしたり)、そういうすごい単純な事だけです。
実態のない大勢の誰かに自分の大事な音楽を投げつけてみるより、今こそ、僕の音楽に興味を持った人へ1対1でそれを手渡ししたいと思ったんです。
そのために僕はインターネットとか肉体的に使えそうだぞ、と。
だからダブルアルバムに関しては、どこも通さず自分で売ります。著作権も僕に帰属し、自分で管理します。音楽をダイレクトに聞く人に渡していきます。

さらに、ああ聞いて良かった、もっと聞かせろ!なんか見せろ!と思ってる人からダイレクトにお金を集めて、その基金を活動資金にしようと思います。
寄付金額は1円でもいいし、1億でもいいです。好きなだけ。思った時に365日。
で、そういうの中身全部オープンにして。今これだけですっていう。webサイトとtwitterとかで。
俺こういう音が出したくて、それを出すための機材買いたいからこれだけ使うつもりだ、とか。
単純に1000人から1000円集めたら僕はそのまま100万手に入れて、それでまた面白い事して返す。
リスナーと音楽家で限りなくダイレクトに行われて、間でよくわからない場所へ資金が還元される事なく自分自身に戻ってくる仕組みが欲しいなとずっと思ってました。
素晴らしいと感じた音楽とかアイデアとか「体験」自体にフェアに対価を払う事ができる、当たり前で健全なシステムを自分で作ってそれを堂々とやろう。
が、「M.A.F」(マフ)です。

これ、僕が普段考えいてたことと、かなり近いです。リスナーと音楽家がダイレクトに繋がるシステム。今までは「間でよくわからない場所へ資金が還元される」ことが多かったわけです。音楽家が与り知らない場所で、巨額のお金が動いてたんですね。自分が生み出したお金の総量もわからないし、使われたお金も、その使途もわからない状態です。これ、真っ当な感覚を持っていれば相当に気持ち悪いはずなんですよ。そして、音楽における「主役」であるはずの創作者とリスナーが、本来背負わなくても良い経済的負担を強いられます。

その人が作る音楽が好きだったら、活動を継続してもらって、もっと彼の音楽が聴きたくなりますよね。例えば、これまでのシステムだとあなたが3000円のアルバムを購入しても、創作者に入るのは数十円〜良くて数百円といったところです。これ、知らない人多いんじゃないでしょうか。

今回のまつきさんのシステムなら、3000円が丸ごと彼の活動資金になります。さらに、アルバム購入以外に、好きなだけ支援をすることができます。そして、まつきさんはその収支をM.A.Fのウェブサイト上で公開します。国家予算にもこのくらいの透明性があったら良いんですけどね(笑)

今って実は、ある程度のクオリティの音源だったら自宅スタジオで作れるんですよ。いわゆる「宅録」ってやつですね。まつきさんの音源もほとんど宅録だと思います。山崎まさよしさんも宅録でアルバム作ってましたし、佐藤竹善さんも自宅スタジオでレコーディングしてました。まず、世に出せるクオリティの音源を作るところまでは、 自分で出来るわけです。(もちろん初期投資は必要ですよ。)

そして流通に関しては、今回のまつきさんのアルバムのようにデジタルデータでリリースという方法がありますね。CDにする必要が薄くなってきています。今後CDなどのパッケージは、バンドTシャツのようにグッズと同じように、コアなファンのためのアイテムとして扱われるようになると思います。創作者側のリスクマネージメントの観点から言って、これは正しい流れです。

そうなると、いったいどこで中間搾取される必要があるのでしょうか。大規模音楽ビジネスであるメリットはどこにあるのでしょうか。それは唯一、「広告・宣伝」と言った部分になります。広告代理店を通しての大規模な広告展開、レコードショップでコーナーを作って展開、テレビなどのメディアに出演、ですね。これは大手レーベルや事務所などのコネがありますので、既得権益に近い状態です。渋谷に行ったことがある方ならイメージできると思います。スクランブル交差点のモニターで宣伝したり、曲を大音量で鳴らしたトラックが走ったりしてるでしょう。しかし、あれって使用料とんでもない額なんですよね。たぶん一度の広告展開で、音楽家一人が一年間生活できる以上のお金はかかっています。今のところ貧乏ミュージシャンな僕としては、そっちに使って欲しいものです(笑)

とはいえ大規模音楽ビジネスが100%悪いとは言いません。動くお金がケタ違いですから、自宅では不可能な超高音質での音源制作が可能だったり、オーケストラと共演が可能だったり、凄腕のミュージシャンを使うことも可能になります。そうじゃないと実現不可能な次元のサウンドは、確実に存在します。

ただ、それによって、続けていける人の数が限られてしまうんですよね。音楽業界自体の経済規模が縮小して、牌の取り合いみたいな状況になったときに、真っ先に商業的ではない音楽をやっている人が淘汰されていってしまいます。これは、先日の事業仕分けの、「経済効果が見えづらいから」と、予算を削られてしまった科学技術の研究に例えられるでしょう。「これ」という物差しが存在しない音楽や、芸術の分野なら、なおさらそういったマイナーなジャンルに存在意義があります。

もちろんこれまで、音楽家サイドが工夫をしてこなかったのもいけません。例えば、創作者は著作権法上の著作者になるのに、音楽家のほとんどはまったく法知識もないままに活動しているわけです。権利を委譲したら、自分の曲も自由に使えなくなる、なんてことも知らない人は多いです。一部の博識な音楽家(坂本龍一さんなど)によって、この問題は叫ばれてきましたが、メインストリームの音楽ビジネスの形式を変えるには至っていません。

ちょっと話が膨らみすぎたので、戻しましょう。

今回のまつきさんのシステムは、そういった大規模音楽ビジネスの弊害を根本的に解決する手段です。簡単に言えば、「自分は良いものを作るだけで、その評価はリスナーの自由意思に任せる。そして無駄なお金は使わない。」っていう話ですね。言ってみれば、株主みたいなものです。リスナーの方々の出資で、まつきさんがプロの音楽家として生活を継続できて、製作環境が充実して、良い作品が還元されるわけです。株の配当のようにお金で返ってくるわけじゃないところが、なんとも素敵ではありませんか。

僕は、こういう話を、音楽業界の外の方にどんどん知っていただきたいんですよね。創作活動とビジネスのバランスを取るのに、試行錯誤している若い世代のミュージシャンは他にもたくさんいます。音楽にビジネスを持ち込むことに否定的な人は少なからずいますが、継続性をを考えたらそれは正しい姿勢です。

まつきあゆむさんの今回の発表は、これからの音楽家の活動の仕方を示したという意味で、ひとつのランドマークだと思います。国として経済的に余裕がない状態で、生活必需品ではない、音楽や芸術といった存在がどういう立ち位置になっていくのか。今後数年は正念場かなあと感じます。

2009.12.15 update

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